
相続税の税務調査でもっとも多く指摘されるのが、「名義預金」と「贈与」だそうです。「名義預金」の定義を知っておくことで、相続税や贈与税の対策ができるかもしれません。
※記事内容はハーモネート掲載当時のものです。
目次
- 01. そもそも「名義預金」とは?
- 02. 子どもに孫に残したい、こんなケースはどうなるの?
- 03. 今回のまとめ
SECTION 01
そもそも「名義預金」とは?
「名義預金」とは、預金口座の名義人が、そのお金の真の所有者とは認めてもらえない預金のことをいいます。
例えば、専業主婦の妻が、夫の給料から渡された生活費の中から、毎月余った額を妻名義の口座にためているという方は多いでしょう。しかしこの場合、夫が亡くなった時に、税務署が口座の入金経緯などを調査し、「名義預金」であると判断することがあります。
これは、口座の名義が妻であっても、「このお金は実際に収入を得ていた夫のもの」と見なされるためです。したがって、この口座のお金は相続税の対象となってしまいます。
事例(専業主婦Sさんの場合)このへそくり、私のものじゃないの!?
「毎月の生活費の余った分は好きにしてよい」と夫から言われ、やりくりを重ね、25年間、毎月5万円ほど"へそくり"をしていました。

夫が他界。税務申告をすると妻の「へそくり」口座を指して税務署の担当者からこう問われました。

このケースにおける税務署の判断
明確に「贈与」されていない妻のへそくり(夫の収入からコツコツためた1500万円)=「名義預金」であるため夫の財産(相続財産の対象。分割協議や相続税の対象になる場合も)

完全に自分の財産にしたいのであれば、拠出者(この場合は夫)と贈与契約を書面で交わす。その額が年間110万円以下の贈与であれば非課税になる。
契約書を交わすことが困難なら、相続税がかかることを前提に、「家族の将来に備えたお金」と割り切って蓄える。
相続手続き時に自発的に相続対象の財産として申告し、公正に分配する。
※離婚時の財産分与にかかる税金とはケースが違いますのでご注意ください。
財産をあげる人(贈与者=夫)ともらう人(受贈者=妻)がお互いに意思確認をして、贈与されたと理解しているかどうかがポイントです。そうでないと名義を借りた貯蓄と見なされ、税金がかかる場合があります。
生前贈与を活用して、毎年110万円までの非課税枠(基礎控除)内に抑えれば、妻は課税をされることなく財産を受け取ることができます。
※基礎控除の注意点は下のコラムを見てください。
※税務に関する具体的なアドバイスについては税理士などの専門家にご相談ください。
基礎控除の範囲内でも"定期贈与"は課税対象に
「名義預金」と目されそうな預金をいったん解約し、それを基礎控除の範囲内で、改めて数年にわたって贈与する「暦年贈与」という方法もあります(※)。
ただし、年間100万円(非課税枠上限110万円)の定額贈与を10年闇で合計1000万円を行うような場合、「定期贈与」として税務署から「最初から1000万円を贈与する意思があった」と見なされ、1000万円に対する贈与税を支払うことになるケースもあります。
※通帳の認知や管理については、下の注意事項をご覧ください。
定期贈与とみなされるケース
毎年同じ時期に、同じ金額を定期的に贈与

非課税扱いとされるケース
年間110万円以内で毎年異なる金額を、時期をずらして贈与

定期的な贈与を避け、贈与金額や贈与時期を毎年変えるなどすると良いでしょう。
SECTION 02
子どもに孫に残したい、こんなケースはどうなるの?
子どもや孫名義の通帳をつくってお金をため、名義人が成人した時に通帳を渡す、というケースはよく聞く話です。
しかし、このように子どもや孫が、自分名義の口座があることを知らない場合や、通帳や印鑑などの管理やお金の出し入れを親や祖父母が行っていた場合、それは子どもや孫のものではない「名義預金」(親・祖父母のお金)と見なされます。
「できるだけそっくりそのまま、子どもや孫にお金を渡したい」と願うのは、親や祖父母であれば当然でしょう。しかし、自分たちが死亡して相続が発生した時の調査で「名義預金」と判断されると、贈与が成立していないことになってしまいます。
それを防ぐには、生前に準備をしておくことが必要です。生前贈与の制度の中には、一定の金額や条件下で贈与税が非課税となるものもあるので、活用を検討してみましょう。
「名義預金」に該当しない口座とは?
①最初に通帳を作ったのは祖父母や親だとしても、その口座の存在を子どもや孫がきちんと知っている。
②口座の通帳と印鑑、キャッシュカードを子どもや孫が自分で管理して、お金の出し入れを自分で行っている。
Case1
親 ▶ 子ども にお金を渡したい
親が子ども名義でためた預金は子どものものになっていない「名義預金」。通帳を「渡すとき」に贈与税、相続時なら相続税の対象となる。

まとまったお金を税金の心配をせずに子どもに渡したいなら、右ページの贈与契約のほか、下のような制度の利用が考えられます。

結婚・子育て資金を一括贈与
1000万円まで非課税 ※1
※1:さまざまな条件がありますので国税庁HPをご参照ください。
住宅取得のための資金贈与
非課税限度額 ※2までは贈与税がかからない
使途は限定されますが、このような制度を活用すれば親から子どもに一定の金額を非課税で贈与することができます。
※2:非税限度額は住宅条件によって違いますので国税庁HPをご参照ください。
Case2
祖父 ▶ 孫 にお金を渡したい
死亡した祖父がためた孫名義の預金口座は「名義預金」。相続時に相続人に遺産分割されてしまうことも。

祖父が孫のために預金した財産が「名義預金」と見なされれば、その預金は祖父のもの=相続財産として法定相続人などに分割相続されることになります。特定の孫にお金を渡したいのであれば、教育資金として贈与するのも一案です。
教育資金の一括贈与
1500万円まで非課税 ※3
教育資金に充てるという目的に限定されているため、使途が細かく決められています。一括で贈与した多額のお金を、孫が遊興費として使ってしまうようなことを防ぐため、領収証などの毎年の提出や、30歳までの年齢制限といった条件が設けられています。
※3:さまざまな条件がありますので国税庁HPをご参照ください。
SECTION 03
今回のまとめ
- 「名義預金」のままでは亡くなった人の「相続財産」に
- 一括贈与が非課税になる制度を活用しよう
(CFPファイナンシャルプランナー・1級ファイナンシャルプランニング技能士)
大手住宅メーカーで10年間、注文住宅の販売に従事した後、FPに転身。住宅購入コンサルティング実績は2000組以上。保険の見直しや家計診断、セミナーや研修をてがける。